副腎皮質機能低下症とクッシング症候群術後で、ステロイド補充の開始量が大きく違うのはなぜですか?
最近のステロイド補充の考え方では、ACTH分泌低下症などの副腎皮質機能低下症の場合、生理的な分泌量に近づけていく形で、5〜10mgのような少量からコートリルなどを始め、そこから自分に合う量を探っていくアプローチが増えてきているように感じます。
一方で、クッシング症候群の手術後や副腎摘出を受けた方の体験談を見ていると、20〜30mgやそれ以上の高用量からスタートしています。同じ「コルチゾールが足りない状態」のはずなのに、なぜこれほど開始量に差が出るのか気になっています。
「コルチゾールが足りない」という結果は同じでも、そこに至る経緯が違うので、治療の始め方も変わってくるみたいです。私は続発性の副腎皮質機能低下症で、クッシング症候群の術後を経験したわけではありませんが、調べて整理した内容をメモしておきます。
原発性や続発性の副腎皮質機能低下症は、もともと体の中のコルチゾールが足りない状態です。治療では、本来なら体が作っているはずの量に近づけるように、コルチゾールを補充していきます。
でも、クッシング症候群の術後は少し事情が違います。2026年に発表されたレビュー論文では、手術のあとにコルチゾールを急に減らすと「糖質コルチコイド離脱症候群(GWS)」が起こることが多いと報告されていて、手術で治ったクッシング症候群の患者さんの40〜66%がこれを経験するそうです。
その理由として、論文では主に2つのことが説明されています。
1つ目は、「体が高いコルチゾールに慣れてしまっている」ことです。長い間コルチゾールが過剰な状態が続くと、体はそれに合わせて感受性を下げていきます。その状態で、手術によってコルチゾールが正常値まで下がったとしても、体の反応はすぐには元に戻りません。血液検査では正常でも、体は「まだ足りない」と感じてしまうことがあります。論文では、この状態を「相対的な糖質コルチコイド不足」と表現していました。
2つ目は、自分でコルチゾールを作る仕組みが抑えられていることです。クッシング症候群では、長い間コルチゾールが多すぎる状態が続いているので、自分でホルモンを作る機能が休止したような状態になっています。手術でコルチゾールが減っても、自分で十分な量を作れるようになるまでには時間がかかります。数週間で回復する人もいれば、数年かかる人もいるそうです。
あと、手術そのものが体にとって大きな負担になるので、術後しばらくは多めの補充が必要になることもあります。実際の治療では、ヒドロコルチゾンなら1日30〜60mgくらいから始めて、体に合わせて少しずつ減らしていくことが多いみたいです。
まとめると、原発性・続発性の副腎皮質機能低下症は「もともと足りないコルチゾールを補う治療」です。クッシング症候群の術後は「高いコルチゾールに慣れてしまった体を、時間をかけて元の状態に戻していく治療」です。
同じ「コルチゾール不足」という言葉でも、
・もともと絶対的に不足しているのか
・高い状態から急に下がったことで、相対的に不足しているのか
この違いによって、治療の考え方や開始量が変わってくるんじゃないかと思います。
https://academic.oup.com/ejendo/article/194/4/R67/8655092